世界的建築家フランク・ロイド・ライトの芸術作品である小さな校舎「自由学園 明日館」。そのライトの建築物のたたずまいにより育まれた「隠れた美」を見つけられる深い心、その心を表現し、人々に良いものを提案するために研究を続けてきた、自由学園工芸研究所と自由学園消費経済研究部。そのふたつが統合し、2014年4月より「自由学園生活工芸研究所」と名称を改め再スタートしました。
日本人で唯一「Johannes Itten」に直接学んだ二人の卒業生
一般的に美術の教育といえばお手本の絵を模写していた1900年代初頭、自由学園では“生徒に本物の美術教育を”という創立者・羽仁もと子、羽仁吉一の思想により、初期の指導者には山本鼎、石井鶴三、深沢紅子、清水多嘉示など日本を代表する美術家が集まり講師を務めていました。
女子部8回生の山室光子氏・笹川和子氏の両氏は、卒業後の昭和6年、更なる美術工芸の技術発展、織物や染色などの専門技術取得を求め、ヨーロッパに留学します。まず、チェコスロバキア国立工芸学校で工芸の基礎を学び、翌7年ベルリンの「Itten Schule (イッテン シューレ)」へ。
「Itten Schule (イッテン シューレ)」は、ドイツの造形学校「Bauhaus(バウハウス)」で基礎教育を担当していたJohannes Itten(ヨハネス・イッテン:1888~1967)が創立した美術学校です。 「合理化・機能主義」に進んでいったバウハウスに比べ、イッテンは日本美術にも造詣が深く、独自の造形論および色彩論を学ぶ主張し「精神・感性」など、日本の「侘び・寂び」とも通じる教育方針を大切にしていました。
山室、笹川両氏は、イッテンから美術工芸の基礎教育を直接学ぶ機会を与えられ、大きく感銘を受け、その教育法を母校の自由学園に持ち帰ります。帰国後、工 芸研究所(現:生活工芸研究所)の創立に携わることとなります。それから80余年の月日が流れた今日も、山室氏、笹川氏から直接美術工芸を学んだ自由学園 の卒業生を中心に、オリジナル製品のデザイン、製作を続けています。
<消費経済研究部(旧)>
自由学園の創立者・羽仁もと子の提唱する “予定生活” を学校あるいは 家庭で実践するうえで必要なものを扱う機関として、自由学園で生徒た ちの手で学んだことを生かして「自由学園消費組合」が1930年に誕生し ました。 それ以来80年、時代の変化に応じて形態は変わりましたが、その活動の 基にある「生活に必要なものは何か」「本当によいものは何か」という 考えは「消費経済研究部」となった今でも変わらず、受け継がれてきて います。2014年4月に工芸研究所と統合され、「自由学園生活工芸研究所」と名称を改めました。
<history>
1930年 | 自由学園消費組合設立 |
1931年7月 | 自由学園の美術教育のため、山室、笹川(旧姓:今井)が留学生としてヨーロッパへ派遣され、チェコスロバキア国立工芸学校へ。 翌年ベルリンに移り、バウハウスでデザイン基礎教育部分を教えておられたヨハネス・イッテン氏にデザインの基礎を学ぶ。 |
1931年 | 国内留学として仙台の商工省工芸指導所へ6名(木工)、織物染色工場へ3名が行き、それぞれの専門技術を学ぶ。 |
1932年11月 | 海外留学生帰国。新卒業生も加わり正式に工芸研究所を創立。研究所員20名。 |
1937年4月 | パリ万国博(4月より6ヶ月間)に『山と波』他きょうけつ染め布地等15点を出品。金、銀、銅賞を受ける。 |
1940年6月 | 商工省主催の『輸出工芸振興展』に出品。織物ベッドカバーが一等賞。和紙きょうけつ染めが3等賞となる。 |
1951年 | 幼児を持つ卒業生による玩具研究グループを作り子どもの成長に役立つものの研究製作に力を入れる。 |
1963年 | 織物講習会(受講生49名)開催、以後1986年まで毎年開催する。 |
1963年 | 研究生の制度を設ける。 |
1967年 | 色彩の基礎、デザイン、技術の研究を進め、その成果をまとめて『新しい手織』を婦人之友社より出版。 |
1970年 | 『図案から制作へ』を婦人之友社より出版。デザインの勉強とそれを生かすことを研究し、わかりやすく解説。 |
1983年 | 『半世紀にわたる生活工芸運動と啓蒙活動』にたいしインテリア協会賞受賞。 |
1985年 | 玩具『コルクの積木』に対して60年通産省選定の『グッド・デザイン福祉商品賞』を受賞。 |
1986年 | 玩具『重さくらべ』に大阪グッド・デザイン賞を受賞。 |
1991年1月~8月 | フランスの織物作家シーラ・フィックス女史のアトリエに2名が短期留学生として勉強に行く。 |
1991年11月 | 第6回読者創作工芸展を開催。保存問題が考えられている明日館も含めて見ていただく。 |
1992年4月 | 工芸研究所『創立60周年の集い』を開く。 |
1994年1月 | 婦人之友創刊九十周年記念表紙絵展に併せて新宿三越で『自由学園工芸研究所近作展』を開く。 |
1995年3月 | 玩具『重さくらべ』に対し平成7年通産省選定の『グッド・デザイン賞』を受賞。 |
1996年 | 特別養護老人ホーム「ゆとりえ」(武蔵野市)のタピストリーを製作する。 |
1999年 | 明日館修復工事のため工芸研究所、南沢へ引越。 |
2000年 | 工芸研究所70周年の歴史をまとめ「真実と美を生活に」を出版する。 |
2001年9月 | 明日館が国の重要文化財として修復が完了する。 |
2001年 | 新しいお店JMショップ(JiyugakuenMyonichikan)オープン。 |
2002年 | 研究所70周年 デザイナーズ ウィーク初参加 同時開催。 |
2004年 | 東京国立近代美術館(1月14日~2月29日)ヨハネス・イッテン展に創立者2人(山室・笹川)及び、学園生徒の作品展示される。 |
2005年 | 八戸友の家・羽仁先生記念館にステンドグラスを制作。 |
2006年4月~10月 | 明日館公開講座継続 |
2006年 | 自由学園工芸研究所が、自由学園の収益事業部から明日館と一緒になり、子会社となる事が理事会などで決定。 |
2007年 | 工芸研究所は(株)自由学園サービスとなり、組織が変わる。 |
2012年 | 『豆人形』2012年グッドトイ選定 |
2013年 | 『ぼたんはめ時計』2013年グッドトイ選定 |
2014年4月 | 工芸研究所、消費組合研究部、2部統合。「自由学園生活工芸研究所」となる。 |
2014年 | 『コルク積木』、『コロコロ木の実』2014年グッド・トイ選定 |
2014年 | 『コルク積木シリーズ』第8回キッズデザイン賞受賞 |
2015年 | 『学園積木』第9回キッズデザイン賞受賞 |
2015年 | 『キックトーイ』2015年グッド・トイ選定 |
2016年 | 『オルゴールねむり人形』2016年グッド・トイ選定 |
2017年 | 『洗える動物』2017年グッド・トイ選定 |